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最高裁判所第三小法廷 昭和31年(オ)557号 判決 1956年10月23日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人岩沢誠、同水原清之の上告理由第一点について。

所論は、原判決が憲法三二条並びに地方自治法一七八条に違反すると主張する。しかし公職選挙法に定める選挙または当選の効力は、同法に定める争訟の結果無効となる場合のほか、原則として当然無効となるものではない。本件において原判決の認定するところによれば、昭和二七年八月五日岩佐村長の選挙が行われ、訴外桐山修が村長に当選確定したというのであるから、新村長の就任は確定し、旧村長はその地位に復する余地なく、従つて不信任議決の無効確認を求める請求は法律上の利益を失つたものといわなければならない(上告人の本件訴訟手続が是認せらるるためには、上告人は少くとも同時に新村長の当選または選挙の効力を争う不服申立の手段を採るべかりしものと認められる)。原判決は、言葉の足りないところがあるが、結局同趣旨に帰するのであつて、所論のように地方自治法の違反はなく、これを前提とする違憲の主張は前提を欠くに帰する。

同第二点について。

所論は、原判決に理由のくいちがいがあると主張する。しかし違法な不信任議決に対し抗告訴訟の提起ができないものでもなく、またその場合行政事件訴訟特例法一〇条二項により執行停止が許されないものとはいえない。その手続の結果新村長の選挙が行われないことになるとすれば、所論のような村長も十分に救済を受けうるのである(本件においては不信任議決は昭和二七年六月一九日であるのに、本件訴の提起は同二九年一月一九日であつて、それまで放置した上告人は右のような救済手段を得られなかつた結果を甘受するほかない)。また新村長の選挙に対し選挙訴訟を提起し得ることは第一点説示のとおりである。その他の主張を含めて所論は多く法令の誤解に基く独自の意見であつて、原判決に所論のような違法はない。

同第三点について。

所論は、仮りに旧村長がその地位を回復し得ないとしても、村に対し一定額の給料請求権があり、このことは旧村長の地位が存続しているかどうかにかかるという理由をもつて原判決の法令違反を主張する。しかしもとより上告人がその理由によつて村に対し給料請求の訴を提起することは自由であり、また理由ありと認められるときは勝訴の判決をうるこというをまたないが、前説示のように、不信任議決無効確認の訴は、現在村長たる地位に在ることの確認を求める趣旨においてのみ許されるのであつて、所論の給料請求権の行使しうるか否かにより常に本件訴訟の是非が定まるものではない。所論も採用のかぎりでない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小林俊三 裁判官 島 保 裁判官 垂水克己)

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